+uneasy+





今日こそは……と思いマンションの扉を通過する。

玄関が近づくにつれて高まる期待。

だがドアの前まで来てやはり漏れてしまう溜め息。

ここ何日かドアの前で溜め息をつくのが日課になってしまっている。

何度意識を集中させても部屋の中に人のいる気配はない。

今日も仕方なく誰もいない部屋の鍵を開けた。










誰もいないリビングの明かりを点ける。

テーブルに鍵を置き、椅子に上着を掛けた。

冷蔵庫を開けてミネラルウォーターを取り出し、ぐいっと一口飲んでソファに腰を下ろした。

軽く息を吐き出してアイツのことを考える。

もう何日アイツに会っていないのだろう。

彼のいない部屋はひどく静かで、こんなにリビングは広かったのかと感じさせられる。

一緒に住み始めた頃はお互い今程忙しくもなく一緒にいられることの方が多かった。

寝食を共にし、休みの日はゆっくりと過ごすことも多々あった。

だが、それはデュオの仕事が忙しさを増した事によってそう長くは続かなかった。

アイツは仕事で宇宙に上がる。

そして平気で1週間程家を空けることもある。

この前は最高記録更新で20日間だった。

………思い出した。

最後に会ったのは確か2週間前だ。

デュオの仕事が終わり、暫くは休暇で家にいるとのことだった。

これで漸く二人っきりの時間を過ごす事が出来る!と思ったのも束の間、

急な任務で今度は俺が家を空ける番になった。

『任務じゃ仕方ないもんな……。』

少し寂しそうな表情で、それでも笑顔で気をつけて、と玄関先で俺を見送ってくれた。

任務を終えて漸く帰って来てみれば、デュオはまたしてもいなかった。

丁度俺が帰って来る少し前に行き違いに宇宙に上がってしまった後だった。

その時はテーブルに書置きが残されていた。

そのメモにはいつ帰るかは未定、食事は冷蔵庫、とだけ書かれていた。










俺はもう一口ミネラルウォーターを口に含んだ。

自然に漏れる溜め息。

こんな時はいつも不安になる。

本当にデュオはここに帰ってくるのか……と。

アイツは不安に思うことはないのだろうか?

俺と会えなくて何とも思わないのだろうか?

そんな風に考えているのは俺だけなのか?

考えれば考えるほど答えは出てこない。

それどころか、益々分からなくなってしまう。

デュオに直接会って聞いてみたい、お前は不安に思うことはないのか……と。

そしてアイツが同じ思いであればいい。

そうすれば俺はまだ大丈夫だから………。















それから一週間が何事もなく過ぎた。

俺は今日も誰もいない部屋に帰る。

いつものように鍵を取り出して……そこでふと手を止めた。

部屋の中に誰かの気配がする。

それはひどく久しぶりに感じる気配。

もうずっと待ち焦がれていた気配。

逸る気持ちを抑えて鍵を開けた。

「デュオッ!」

開けるなりそう叫んで、靴を乱暴に脱ぎ捨て中に入った。

「お帰り、ヒイロ。…久しぶり。」

少しはにかみながらデュオがリビングに立っていた。

俺は勢いよくデュオを抱き締めた。

「どうしたヒイロ?オレに会えなくて寂しかったとか?」

デュオが笑いながら抱き締め返してくれる。

俺は抱き締める腕に力を込め、彼の肩に顔を押し付けた。

「会いたかった……。」

思わず口から出てしまった本音に、オレも…と返事が返ってきた。

そのセリフに顔を上げれば、少し困ったような顔をしたデュオと目が合った。

「久しぶりに会えて嬉しいんだけどさ、オレ…もう行かなきゃなんねーんだ。」

ふと彼の周りを見渡せば、足元に小さなカバンが置かれていた。

「また仕事なのか。」

「あ、ああ。でも…っ。」

続きの言葉を聞きたくなくて、その口を自分のソレで塞いだ。

久しぶりに触れた彼の唇は、甘く…そして柔らかい。

それをもっと味わいたくて、舌を絡めてきつく吸い上げた。

「んっ…ふ…。」

彼から漏れる吐息が耳に心地良い。

長い空白の時間を埋めるかのような激しいキス。

そのキスはデュオが俺の背中を叩いて抗議するまで続いた。

口付けを解いてソファーに並んで座った。

「はぁはぁ、…ヒイロお前なぁー。」

息を整えながらデュオが文句を言ってくる。

「また塞いで欲しいのか?」

俺のセリフに大人しく黙るデュオが可愛くて少しだけ心が軽くなった。

言いたいことや聞きたいことがたくさんある……だけど、どれから話せばいいのかわからない。

そう考えている内にデュオがソファーから立ち上がった。

「オレそろそろ行かないと。」

じゃあな、と言ってカバンを取ろうとしていた腕を思わず掴んだ。

「ヒイロ!」

「5分でいい!5分でいいから……側にいてくれ。」

時間がないことはよく分かっている。

だけど、1ヶ月ぶりにやっと会えたんだ、もう少し一緒にいたいと思って何が悪い。

「あーソレ反則。」

「?」

「何でもない。……うー5分だけな!」

そう言ってソファーに座り直したデュオをもう一度抱き締めた。










俺の腕の中で大人しく身を委ねるデュオ。

彼の臭いを嗅げば、シャワーを浴びた後なのかシャンプーのいい匂いがした。

今日だけでもこのままこうしていたい……。

そして久しぶりに彼の熱を感じたい…そんな衝動に駆られそうになる。

デュオは同じように思っていてくれないのだろうか。

「デュオ、聞きたい事がある。」

「何?」

抱き締めていた腕を解いて向かい合った。

「お前は不安に思うことはないのか?」

「どういう意味だ?…って、悪いヒイロ!マジで時間ない!」

腕時計を見て慌てて立ち上がり、

カバンを掴んで玄関に向かうデュオを俺はただじっと黙って見ていることしか出来なかった。

靴を履きドアノブに手を掛けながらデュオが言った。

「携帯にかけてきてくれ!話はそこで聞くから。ちゃんとかけろよ!」

それだけ言って出て行ってしまった……。

俺は言われた通り携帯を取り出し番号を押した。

コール1回でデュオが出た。

「………。」

『…お前なぁー、もしもしくらい言えよっ!』

俺が黙っていると、デュオが勝手に話し出した。

『で、さっきの続きだろ?何だったっけ?』

「お前は……不安に思うことはないのか?お前は平気で何日も家を空ける。

俺はお前と会えないと不安になる。このまま帰って来ないんじゃないかと……。

お前は俺と会えなくても何とも思わないのか?」

ずっと聞きたくて、でも聞けなかったことが携帯電話を通してだとすんなり言葉になって口から出た。

相手の表情を見ないで済むという事が俺を素直にさせたらしい。

『何とも思ってないわけじゃない。オレだって……不安に思うことくらいある。…でも……。』

「でも?」

携帯を持つ手に力が入る。

『お前のことを信じてる。』

「デュオ…。」

『なぁヒイロ。部屋に戻ってお前がいなくてもオレはお前がここにいるんだなって感じる。

オレが出掛ける前に放っておいた服とか皿とか雑誌とか……お前ちゃんと直しておいてくれるだろ?

それを見るとさーヒイロがやってくれたんだー、ヒイロはちゃんと帰って来てるんだって思うんだよ。

だからオレは安心して宇宙に上がれる。……お前はそう感じないか?』

昨日まではなかった雑誌、シンクに置かれている食器、

脱ぎ散らかされた服、そして皺くちゃになっているベッド。

明らかに自分がやったのではないその行動。

それらを見て確かに安心している自分がいるのは事実だ。

デュオはここに帰ってきている。

言葉はなくとも行動で示してくれている。

『ヒイロ?』

「ああ、そうだな。……俺もお前を信じている。」

『へへっ、そっか。』

デュオの歩く音が止まった。

『なぁ、オレ今回は早く帰って来れそうなんだ。だから……久しぶりにお前の手料理が食べたいな〜。』

「何が食べたい?」

デュオが甘えてくれているような気がして嬉しくなった。

『何でもいい。でも和食が食べたいかな。』

「了解した。待っている。」

『OK!じゃまたな!』

そう言って電話が切れた。










携帯を机に置いて椅子に腰掛けた。

信じている……デュオのその言葉で満たされた自分。

あんなに不安に感じていたのに、今はもう安心している単純な自分。

「愛している」とか「好き」だとか、そんな言葉よりもその一言が本当に嬉しかった。

アイツが帰ってきたら何を食べさせてやろうか?

上昇した気分でそんなことを考える。

「早く帰って来い。」

今から献立を考えて、帰りを待ちきれない自分がここにいた。











あとがき
1ヶ月ぶりのSS。お久しぶりデス(笑)
どうしてもヒイロさんに言わせてみたいセリフがあって、
それを言わせようと書き出したらこんな話になったと言う訳です(汗)
まぁ内容はいつもと変わり栄えないんですけどね(^▽^;)
ヒイロさんはデュオと行き違いで長い間会えなくてちょっぴり不安なんだよ〜って感じだと思ってもらえたら(笑)
そしてデュオはヒイロさんより男前度をアップさせてみましたvv
が、果たして上手くいったんでしょうかね??

2006.07.01     葵