| +talisman+ |
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ピンポーン。 普段滅多に鳴るはずのないチャイムが鳴った。 デュオは雑誌を読む手を止めてリビングにあるモニターを覗き込む。 そこには一人の男性が立っていた。 少し不審に思いながらも、応対する事にした。 どうやら郵便を届けに来たらしい。 応対する限りでは怪しい所は何もなく、デュオは玄関に向かう。 扉を開けると人の良さそうな男が立っていてサインを求められた。 ペンを借りて普段書くことのない名前を書く。 すると男はにっこり笑って封筒を差し出した。 デュオがそれを受け取ると、男は頭を下げて去って行った。 デュオは玄関先に立ったまま受け取った封筒を見つめる。 (アイツに郵便が来るって珍しいよな〜) 何気なく差出人を見るとそれは警察署からだった。 「警察?アイツ一体何やらかしたんだ?」 そんな一人事を無意識に言いながら、デュオは部屋に戻った。 その日の晩、仕事からヒイロが帰って来た。 荷物を置き上着を椅子に掛けながら、ヒイロは何気なくテーブルの上に置いてある封筒に目をやった。 デュオが丁度部屋から出てきた。 「おかえり〜、ヒイロ飯は?」 「済ませてきた。」 「そっか。あっ、そうだ夕方お前に警察から何か来てたぜー。」 何かしたのか?とデュオは聞きながらヒイロが封筒を開けるのを待っていた。 ヒイロは一度、差出人を確認してから封を開けた。 そこから取り出したのは一枚のカード。 デュオはそれが何なのか気になって、ヒイロの側に来てそれを覗き込んだ。 それはヒイロの新しい免許証。 「免許証?何でそんなモンが送られてくるんだ?」 デュオは不思議で仕方ない。 「この間更新に行ってきた。」 どうやら自分で取りに行く予定だったらしいのだが、任務で行けず郵送してもらったようだ。 「ふーん。じゃあ前の免許証は?」 「まだ持っているが、それがどうかしたのか?」 デュオは少し考え込んでいたがヒイロに笑顔で尋ねた。 「なぁその免許証ってどうするんだ?」 「……処分するが…。」 「じゃあそれ俺にくれよ!!いいだろ?」 ヒイロは何を言われているのかよくわからない。 なぜデュオが期限の切れた自分の免許証を欲しがるのか……さっぱりわからない。 もしかしたら何かに利用するつもりなのか?デュオに限ってそんなことはないと思うが…。 「何に使うつもりだ?」 「おいおい、人聞きが悪いぜヒイロ。俺がお前のを悪用するわけないだろ?」 「じゃあどうするんだ?」 悪用するつもりがないのなら何をしようというのだ? ヒイロはデュオの答えを待つ。 「別に…どうもしないよ。どうせ捨てるんなら貰ってもいいだろ?」 デュオは理由を話さない。 話せない理由なら尚更あげることはできない。 「ダメだ。これは処分する。」 持っていても何にもならないだろう。 これには写真も載っているから早く処分した方がいい。 「ケチ!いいよもう!」 貰えない事が気に入らなかったのかデュオはさっさと部屋に戻って行く。 「今日は一人で寝るから入ってくるなよ!!」 そんな可愛い捨てセリフを残してデュオは部屋に戻ってしまった。 一人取り残されたヒイロ。 デュオが何故そんなに機嫌が悪くなったのか理解できない。 デュオ自身も免許証を持っている。 なのに何故ヒイロの物を欲しがるのか……。 結局何も分からないままヒイロは自身の免許証を処分した。 一人部屋のベッドに蹲るデュオ。 (ちぇ、ヒイロの奴。免許証くらいくれたっていいじゃん!) 別に悪用しようって訳じゃないんだし。 (アイツだったら何も言わずにくれると思ったんだけどな〜) ハァ〜と溜め息をついてごろんと仰向けになった。 珍しく理由を聞いてきたヒイロ。 デュオには答えられる訳がなかった。 (アイツの写真が欲しいなんて本人に言えるかバカ!) 今度はうつ伏せになって枕に顔を埋めた。 お互い写真を撮るような習慣はなく、反対に顔を出さない生き方をしてきた。 平和になった今でもそれは変わらない。 だからお互い写真を撮る様な事はなかったし、撮りたいと思った事もなかった。 (あ〜あ、いい機会だったのにな〜) ヒイロの写真をゲットできるいい機会だったのに、その機会は失われてしまった。 (まっ、いっか。) そう思い直して諦めることにしたデュオだった。 翌日。 デュオは昨日の事を何か聞かれるんじゃないかと思い、ヒイロより先に起きた。 いつもならヒイロの方が早く起きていて、いつまで経っても起きて来ないデュオを起こすのが常だった。 珍しい光景にヒイロが何か言いかけたが、デュオによってそれは遮られた。 「よっ、おはよう!オレ今日は先に行くから!」 じゃあなと言ってデュオはヒイロの返事も待たずに行ってしまった。 (昨日の事をまだ怒っているのか?) ヒイロはそう思わずにはいられない。 ヒイロにしてみればデュオが何故そんなに怒っているのかよく分からない。 そんなに免許証が欲しかったのだろうか。 いや、免許証に拘っていると言ってもいいだろう。 そこまでは考えつくものの、デュオの考えていることなんか丸っきり見当のつかないヒイロである。 いつもみたいに何かくだらない事を考え付いただけだろう。 また暫くしたら機嫌も直るだろう。 そう思い考えるのをやめて、ヒイロもまた仕事に向かった。 「うーちゃん。」 「………。」 「なーうーちゃんてばー。」 「………。」 「……五飛。」 「……なんだ?」 「なんだ、聞こえてんじゃん。」 五飛はコンピューターを見つめたまま返事する。 「用がないなら向こうへ行け。」 「えー用があるから来てんじゃん。」 「ならさっさと話せ。」 キーを叩きながら五飛が話を促す。 デュオは五飛の隣の机に腰掛けてじっとキーを打つ手を見てた。 「なぁ、今プリベンター内で流行ってることがあんだけどさー知ってる?」 五飛は勿論知っているはずもなく、無言でデュオに先を促す。 「好きな人の写真を財布に入れてるとお守りになるんだって。 オレ達の仕事ってさ〜結構アブナイこと多いじゃん?だから結構やってる奴多いみたいだぜ。」 「で、お前は奴のが欲しい訳か。」 五飛がキーを打つ手を休めて初めてデュオの方を向いた。 「そうなんだけどさ、写真なんか持ってる訳ないだろ?」 「奴に言ってみたのか?」 「一応それとな〜く頼んだんだけど、失敗してさ〜。」 そう言ってデュオは頭をポリポリ掻く。 「まぁ最初は欲しかったんだけど、今はもういいかな〜って思ってるんだ。 写真なんかなくてもアイツはオレの側にいるし、何かあった時もオレが守ってやればいいだけのことだし。」 「そうか……。」 「おう!」 それだけ言って五飛はまたキーに手を掛ける。 「んじゃオレもう行くな。聞いてくれてサンキュ。」 「ああ。」 もうこちらを見ることなく五飛は仕事に戻った。 「あっ、そうだ。聞いてくれたお礼に今度サリーの写真もらっといてやるよ!」 「いらんわっ!!」 「照れるなって、じゃあな!」 「照れてないっ!!」 五飛の怒った声がしたがデュオは部屋を出た後だった。 それから暫くして五飛の元に今度はヒイロが現れた。 「次は貴様か。」 ヒイロが部屋に入ってきたのを見て五飛はそう呟いた。 「デュオを知らないか?」 「奴なら先程までここにいた。」 「そうか……。」 「まだ何かあるのか?」 用が済んだのに出て行かないヒイロに五飛はそう聞いた。 ヒイロはその場に立ち止まって何か考えている風だ。 少し考えてからヒイロは五飛にこう聞いた。 「期限の切れた免許証を欲しいと思うか?」 「は?」 五飛は間の抜けた声を出してしまった。 いやこの場合仕方ないかもしれない。 「昨日デュオが欲しがった。」 それを聞いて五飛は納得した。 デュオの言ってたことはこれか。 ヒイロはまだわかっていないらしい。 このまま素直に教えてやるべきか、それとも放っておくべきか。 「ヒイロ、最近プリベンター内で流行っている事があるのだが知っているか?」 「……いや。」 「好きな奴の写真を財布に入れておくとお守りになるそうだ。」 流石に鈍いヒイロでもこれだけ言えば分かるだろう。 「すまない。」 ハッとした顔をしてヒイロはそれだけ言うと慌てて部屋を出て行った。 「ふん、世話の焼ける奴らだ。」 そう言って今度こそ仕事に集中する五飛だった。 「デュオッ!」 やっとの事でデュオの姿を見つけたヒイロは珍しく大声で叫んだ。 「どうしたヒイロ?そんなに急いで、何かあった?」 「お前を探していた。」 「オレを?」 デュオは今朝の事で何か言われるのではないかと思い、今日の内はヒイロとなるべく会わないようにしていた。 だが珍しくヒイロが探しに来てくれた事が素直に嬉しいデュオだった。 「昨日の事だが……。」 「あ〜アレはもういいんだ、悪かったな。」 ヒイロの会話を遮ってデュオが言った。 (やっぱり昨日の事かよ) デュオはどう言えばヒイロが納得してくれるのかを考える。 ヒイロはその間少し考えて、デュオが話し出すよりも早くその手を掴んで歩き出した。 「行くぞ。」 「えっ?ちょっと、行くってどこに?」 「いいからついて来い。」 デュオの制止も虚しくヒイロは手を掴んだまま離さずに歩いて行く。 プリベンターの本部を出てそのまま街の方へと歩き出す。 ヒイロはキョロキョロしながら何かを探しているようだ。 「なぁ何探してんだ?」 デュオの質問にも答えずひたすらヒイロは歩き続ける。 そしてふとある物を見つけて立ち止まった。 それはよく見かけるスピード写真の機械だった。 ヒイロがカーテンを開けてその中に入って行くのを見て、デュオは外で待とうと手を解きにかかった。 「何をしてる?お前も入るんだ。」 有無を言わさず一緒に中に入ることになった。 中は狭い。 当然ヒイロは椅子に座ってるわけで、デュオはヒイロの膝の上に腰を下ろすしかなかった。 「あの、ヒイロさん?この体勢ヤバイんですけど……。」 「少し我慢しろ。」 そう言ってヒイロはコインを投入していく。 「写真……欲しかったんだろ?」 「……何で知ってるんだ?」 デュオは驚いてヒイロを見た。 「流行っているんだろう?」 五飛から聞いたとは言わずにそれだけを言った。 デュオは顔が赤くなるのを感じるがどうしようもなかった。 (すっかりバレてんじゃん) もうこのまま走って帰りたい気持ちになるがヒイロがデュオの腰を支えていて動けない。 「ほら撮るぞ。」 「……いいのか?」 「ここまで来て今更だろう?」 ヒイロは写真なんかくだらないと言って撮ってくれないとばかりデュオは思っていた。 だけど今こうして二人並んで写真を撮ろうとしている。 あのヒイロ・ユイが写真を撮る所を見れるなんて、とデュオは楽しくならずにはいられなかった。 ヒイロがスイッチを押す。 オレ達は前を向いて枠に顔を入れる。 カウントが始まる。 5・4・3・2…… あと1秒という所でヒイロが動いたかと思うと、いきなり視界が暗くなって唇に暖かいものが触れた。 パシャ。 その音でハッとしたが時すでに遅し。 写真は勝手にOKと判断されて印刷画面になってしまった。 「ヒ、ヒイロ。今何した?」 「何って、お前がどうしても俺との写真が欲しいっていうから撮ってやったんだろう。」 「って、そうじゃねぇ!何でキスなんかするんだよ!普通に撮ればいいだろ!ふ・つ・う・に!」 「それじゃあ面白くないだろう。」 「面白さはいらねーんだよ!」 「何を怒っているんだ?ほら出来たぞ。」 そう言って写真を見せられてますます顔が赤くなるデュオ。 「よく撮れているな。」 しれっとヒイロが言うが、もうデュオは何もいう気になれなかった。 「もう好きにしてくれ。」 本当はヒイロ一人の写真でよかったのに、気が付けば一緒に撮ってる。 しかもご丁寧にキスシーン。 チラリと隣りを窺えば思いの他嬉しそうな顔がそこにあった。 (まっ、いっか) そんな顔を見たんじゃこれ以上文句も言えないデュオであった。 その日の晩。 一枚の写真と睨めっこしているデュオ。 この写真を財布の中に入れるべきか、やめるべきか、真剣に悩む姿がそこにあった。 もし誰かに見られたらと思うと素直に入れられない。 だけど折角ヒイロが撮ってくれた写真である。 ここは恥を捨てて入れようか……。 入れてしまえば誰にも見られることはない。 そう思い直して財布の一番奥に写真をこっそり忍ばせたデュオだった。 入れ終えてから改めて出して見るとかなり恥ずかしい。 (そーいえばヒイロはこの写真どうしたんだろ?) 写真は半分に分けたからヒイロも同じ物を持っている。 (まさかアイツも財布に入れたとか?) 自分で考えて寒くなるデュオ。 聞いてみたいような聞きたくないような、そんな感じだ。 (やっぱ怖いから聞くのやめよ) どっちにしろあまり考えたくないことだった。 果たしてヒイロはあの写真をどうしたのか? それはヒイロのみぞ知る。 あとがき |